皆様は中国武術と聞いてまず何を想像しますか？最も有名な武術は太極拳です。太極拳は中国河南省発祥の柔を主とする武術です。本日は中国伝統武術の中で最も普及している太極拳について解説します。
太極拳とは
頤和園太極拳（たいきょくけん）は、中国哲学の重要概念である太極思想を取り入れた拳種で、形意拳、八卦掌と並び内家拳の代表的な武術として知られています。
練習者が比較的少ない形意拳、八卦掌と比較して圧倒的にメジャーな武術であり、愛好者の数も断トツの人気拳種です。太極拳は、放鬆（fangsong）、慢練（ゆっくり練ること）を特徴とし、外家拳とは明らかなに異なった風格があります。
太極拳の特徴
万里の長城太極拳の特徴はゆっくりとした動きにあります。相手の力を借りてこちらの攻撃に利用し、慢（ゆっくり）、円（曲線を描く軌跡）、柔の風格の中に、「気」の概念を包括し、「勁」を使うことに特徴があります。外見はゆったりとした柔らかい見た目が特徴ですが、全身協調による強大な勁力（整勁）を養成できます。
また太極拳は、相手が先に攻撃を仕掛けても、こちらがそれ察知し逆に機先に制する、いわゆる「聴勁」という概念を重視します。相手の攻撃を腕や上半身の力で押し返して抵抗するのではなく、相手の重心を損なわせつつつつ、隙をつくり、そこを攻めるという攻防技術を得意とします。
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太極拳の歴史
中国の風景太極拳は、武当山の道士の張三豊が創始したという伝承がありますが、明確な記録がなく後世の伝承者による権威づけであると考えられます。
現在、私たちが知りうる太極拳の歴史は、河南省温県陳家溝に居住する陳一族の伝承していた武術が太極拳の原型であることです。陳氏太極拳の伝人であった陳長興の弟子、楊露禅が、北京にてこれを広め、以後北京で太極拳が伝播していくきっかけとなりました。また、陳家溝では、陳氏太極拳が陳一族で代々継承され、今なお河南省では大きな一派を占めています。
1956年に中華人民共和国で簡化太極拳（二十四式太極拳）が制定され、24動作という短い構成、激しい運動を伴わない簡単な動作から、健康維持を目的とする階層からも受け入れられ、爆発的に普及する契機となりました。
台湾地区は、河南省や河北省、北京市、山東省、南京中央国術館出身の大陸出身者などにより伝統的な太極拳が伝承されました。
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太極拳の支派
北京の頤和園で昆明湖を望む太極拳には多くの支派が生まれています。以下にぞれぞれを簡単に紹介します。
楊氏太極拳
楊露禅が陳氏太極拳を学んだ後、独自の創意工夫を施し創始されたものです。楊澄甫が柔の特徴を主とした技術中心に再構成し、楊氏太極拳を確立したとされています。楊露禅は実戦名手として「楊無敵」という外号（ニックネーム）として名を成していました。
非常に柔らかな外観を持つ楊氏太極拳を練る楊一族が、実戦で無敵を誇ったという伝説がありますが、それには、本来楊氏が伝承していた拳は、剛の拳が含まれていた、広める際に文人向けに柔らかい技術のみを伝えた、とする説があります。また柔らかい動作の中の暗勁（予備動作が見えにくい打撃）を得意としています。
楊氏太極拳は、世界に広く普及している簡化二十四式太極拳の設計母体として有名です。
陳家太極拳
河南省陳家溝の陳一族を中心に伝承されてきた支派であり、太極拳の源流とされています。柔らかな動き、と豪快な剛の動きが組み合わされた豪壮な風格を備えています。動作が比較的大きな大架式、動作が比較的小さい小架式という二種の形式があります。
激しい動作を伴う明勁（大きな動作を伴う発勁）をも得意とし、体の捻転動作を由来とする勁を重視する拳種です。
呉式太極拳
呉鑑泉によって創始された太極拳です。弓歩の際に前傾姿勢をとることが特徴です。他派と比較して緊密な動作を特徴とします。
武式太極拳
武禹襄が楊露禅に陳家太極拳を学んだ後、独自の理論を加えて創始した支派です。
孫式太極拳
孫禄堂によって創始された支派であり、形意拳の歩法、八卦掌の身法、武式太極拳の手法が統合されています。
和式太極拳
和兆元が興した支派です。近年、代表的伝統太極拳の一つとして認定されました。
鄭子太極拳
楊澄甫の弟子である鄭曼青が、楊式太極拳を再整理し三十七式にまとめたものです。鄭曼青がニューヨークに移住し現地で指導していたことから比較的海外で普及しています。台湾地区にも伝承があります。
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太極拳の強み
中国の山々太極拳は、ゆっくりした動きを特徴とするだけの健康体操ではありません。相手の重心を精密に読み取り、相手の重心を崩しながら、暗勁を打つことを得意としています。これは特に楊氏太極拳に顕著な特徴です。陳氏太極拳では、比較的わかりやすい剛の発勁を多用します。
推手（相手と重心の駆け引きを行う対練）を積むことにより、重心を崩すことについては非常に巧です。
上でも申し上げた通り、重心が崩れた相手に、モーションの少ない打撃が打ち込まれ、内臓にエグりこまれます。
また、中国武術の中では、激烈な動作が少ないため、体力が少ない方、お年をお目された方でも楽しめる武術の一つです。
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太極拳の弱点
中国の風景太極拳の弱点としては、相手と接触しない距離からの攻防が不得手であることです。通背拳等の遠距離からの連続打撃を得意とする拳種、または蹴りの連続攻撃を行う拳種には、苦戦を強いられます。これを克服するためには、太極拳は、相手と接触し、粘りつ着続けなくてはなりません。これを会得すれば弱点を克服できますが、相当な時間の蓄積（功夫）が必要です。
楊式太極拳をはじめとする多くの支派は、予備動作の少ない暗勁を多用しますが、これの打撃力を養成をするには整勁（全身協調の勁）を練らなければならず、技撃性が成立するまでにかなりの時間を要することも門派の弱点といえます。
まとめ
中国の風景太極拳は、ゆったりとした柔らかい外見の柔の中に剛を含んだ武術であり、中国思想である、太極思想を体で表現する武術です。太極拳を練ることで、中国人が考える宇宙の調和と協調という理想を考える契機になります。
私は、楊氏太極拳を実際に学んだことしかありませんので、他の支派の詳細ついては様々な資料を参照し、紹介させていただく形としました。
