これまで長拳、螳螂拳、八卦掌について概要を解説しました。本日は北方拳術の雄であり内家拳を代表する拳種の一つである形意拳について解説します。
形意拳とは
形意拳は、太極拳、八卦掌と並ぶ、内家拳の一角を占めています。成立は、清朝末期、八卦掌と同年代に体系が成立された新しい拳種です。ゆえに、八卦掌と同じく、馬歩、弓歩という北派の伝統的概念を打ち破る概念が採用されています。五行という易経から引用した思想を術理として採用しています。形意拳でも他の北方武術同じく、槍、刀、剣などの兵器を伝承していますが、兵器では特に槍の身体操法を体現した武術とされています。
形意拳の歴史
形意拳は、清朝末期、李洛能が戴氏心意拳を基に構成したものが元になっており、郭雲深ら劉奇蘭、李存義らにより伝承され今日に至っています。形意拳は、大きく分けて、河北派と山西派に分けられます。形意拳を学んだ王向斉は新たに創意工夫を重ね、意拳を創始するに至っています。
形意拳の特徴
形意拳の特徴は、以下の通りです。
- 三才式を用いる(後ろ足にやや体重をかけ、前足のつま先を前方に向けた歩形)。
- 跟歩を用いる(前方へ踏み込んで技を発する際に後ろ足を前足の踵側に引き付ける)。
- 五行説にちなんだ5種の単招(五行拳)を練る。鷹捉、劈拳、鑽拳、崩拳、炮拳、横拳を基本拳とする。
- 12種類の動物の動きを模した十二形拳を練る。龍、虎、猴、馬、鮀、鶏、燕、鷂、蛇、魚台(tai)、鷹、熊。
- 攻撃動作では、梢節(身体の末端部、拳)を用いる。形意拳の原型である心意六合拳では、体幹部を多く用いるのとは対照的。
形意拳の術理の紹介
形意拳の術理を以下に列記します。
三圓
- 掌心要圓 手の平を円い形にする
- 手背要圓 手の甲を円い形にする
- 虎口要圓 虎口(親指と人差し指の間)を円い形にする
三頂
- 頭頂 頭をうつむかず虚霊頂頸を守る
- 舌頂 舌を上前歯の付け根に付ける
- 手指頂 手の指をしっかり伸ばす意識を持つ
三扣
- 齒扣 歯と歯を合わせる
- 腳指扣 足の指で地面を噛む
- 手指扣 手の指を掴むように少し曲げる
四平
- 頭平 頭を水平に保つ
- 肩膀平 肩部を水平に保つ
- 腳底平 足の裏を水平に保つ
- 手背平 手の甲を水平に保つ
六合
- 肩與跨 肩と跨が合うようにする
- 肘與膝 肘と膝が合うようにする
- 手與足 手と足が合うようにする
姿勢についての要訣
- 雞腿 鶏の脚のように霊活な歩法
- 龍身 龍のようなしなやかな身体のさばき
- 熊膀 熊のような威勢の肩口を保つ
- 虎抱頭 獲物を狙う虎のようなオーラを頭部に保つ
攻防についての要訣
- 攻法即顧法 顧法即攻法(攻撃それ即ち防御、防御即ち攻撃)
形意拳の強み
形意拳の強みは、一撃一撃の勁力です。相手の防御を突き崩す勢いで相手の中心に向かって
全身全霊の一撃を叩きこみます。形と意が一つになることによる打撃力はすさまじい物があります。
そのため形意拳は勁力と整勁を作るため五行拳をはじめとした単式練習をやりこみます。套路をたくさん学んでいろいろなバリュエーションの技法を学ぶというよりも、数少ない招式を練りこんで精度を上げ、それを打ち込むまたはそれを変化させるという方法論で練りこむ武術です。
形意拳自体の練習内容の構成としては決して多岐にわたるものではないですが、これも八卦掌や他の近代武術と同様に長拳の基本功とともに練ることも行われています。
形意拳自体には見える華麗な蹴り技はほとんどありませんが、歩法はそれ即ち蹴り技であり、なおかつ北派武術共通の基本功ができる前提での技術体系であることは、他の武術と差異はないため、蹴りが苦手だから、形意拳だけをやりたい、という場合、過去に形意拳を整理した名人たちと同じ土俵に立てなくなってしまう可能性があります。
形意拳の弱点
一撃一撃が強力な形意拳ですが、連続攻撃の攻防技巧については、連打系(螳螂拳、通背拳、翻子拳)に譲ります。
これは形意拳の弱点ですが、攻防技術の優劣は個人の練功と研究の成果によるため、全ての点において、優れているもの、または劣っているというものはありません。
また五行連環拳は字のごとく、五行拳の技法を連環させて打つことが套路の名称になっている通り、単式練習の精度を高めた後はそれらを連環してつなげる勁力を保持しつつもそれが途切れないように練る段階に移行していきます。
あくまでも一般論として優劣をつけるとするならば、という話ですのでそこは理解をお願いいたします。
まとめ
形意拳は、主に河北省、山西省で伝承されていますが、台湾省でも河北省出身者や南京中央国術館関係者により河北派形意拳が伝承されています。また、尚雲祥が伝承した尚氏形意拳は、山東省にて山東派形意拳として、現代の名拳の一つに数えられます。