意拳は王向斉が形意拳などを基にして創始した拳種です。様々な武術を参考にし、それらを大成したことからまたの名を大成拳とも呼ばれています。今回は王向斉が創始した意拳について解説します。
意拳とは
意拳とは王向斉が創始した拳術です。王向斉は河北深県魏家林村出身の武術家で、当初形意拳を学んでいましたが、見識を広めるため南方への行脚し北京に戻った後、伝統的な武術の訓練方法を一新し、自分の武術を意拳と名乗りました。
意拳の特徴
意拳の最大の特徴は套路の練習を行わないことです。中国武術はほぼ例外なく套路を持っています。ですが意拳は一般的な北派武術と異なり異なり套路を練りません。その代わり一定の姿勢を保ち立つ練習を行う「站樁」という練功法を重視します。そして試力、摩擦歩という練功法を練り、体全体の発力を煉ります。
中国武術ではどの門派も意の作用を理論化し重視しますが、意拳はその中でも特に「意」の運用を重視し、「整体力(全体から出る力)」を重視します。拳術の名称に意を冠していることからも意の作用を重視していることがわかると思います。
意拳は意念による四肢の制御、精神の集中、自然呼吸、全身の放鬆を説き、体全体の統一運用と精神の運用により、体各部に拮抗力を発生させ、それを外力と拮抗させようとします。
その拮抗する力と各部と緊張と弛緩が相互に作用することにより身体と精神と、体の内部と外部に至るまでが高度に協調することにより精神と身体の資源が高い次元で発揮できるようになります。
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意拳の練習内容
意拳の内容について解説します。
站樁
站樁は意拳の基本功であり意拳の訓練システムの基礎となるものであり、意拳の革新内容と訓練方法を含んでいます。站樁は意志を練る練功法であり、これを練りこむことにより技撃性と体の反応性を高めることができます。站樁は練習の目的や練る人の訓練段階により練るポイントは異なり、また技撃にも養生にも利用できます。
試力
試力は站樁で培った能力を動きの中でも体現できるようにするための訓練方法です。
摩擦歩
摩擦歩は意拳のカリキュラムに含まれる歩法の訓練方法です。
発力
発力とは、つまり勁を発する方法論です。
搭手
身体による接触感覚を練る練習です。
試声
発声の作用により整体(全体)の力を練る練習です。
断手
距離を置いたり接したりしながら実際の動作のなかで意拳を練る練習です。
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意拳の歴史的意義
意拳はそれまでの中国伝統武術における套路の反復練習を中心とする練習体系を覆したことで画期的です。
站樁による内功の培養という概念は意拳が新たに考案したものではなく、伝統的な武術にはどこにでも存在するありきたりなものであり、搭手、磨手というような対練練習も特に独創的なものでありません。ですが、これらを練習体系の中心に置くというスタイルを全般的なカリキュラムに落とし込んだという意味では、新しい試みです。
意拳の強み
意拳の最大の強みは、最初の時点から凝縮されたエッセンスを体系的に学べる事です。一般的な中国武術の門派では、架子を練ったり、飛んだり跳ねたりの練習や套路の反復から練習がスタートし、徐々に術理を学び精錬された内容に進みます。ですが意拳では、他の門派が秘伝とするような最も難解で且つ効果のある精華を初めから学ぶことができます。
これは中国武術の経験者、或いは中国伝統武術をネイティブに理解できる練習生にとっては非常に合理的でなじみやすく、具体的で簡潔で直観的且つ理論的なものです。
套路や定型の招式を取り払うことで、意拳は自由で、霊活で、臨機応変で、変化無限の世界を構築できています。
また五行や易、陰陽という中華文明に深くはめ込まれたくびきをある程度取り去っているところも素晴らしいです。意拳の内容は、中華文明の思想の枠の中では最も後期に発展した八卦掌と形意拳からもう一段進んだ革新的なものとなっています。
意拳の難しいところ
意拳の難しいところは、他の北派武術が行うような基本功や套路を練らないため技撃を想像しにくいところにあります。これは、名人が長年の研究によって得られた精華、つまり凝縮されたエッセンスを一番最初のカリキュラムから行うことにより遠回りを排除しているためにおこるものです。
ですから中国武術の心得がない人にとっては最初はとっつきにくいものに思えるかもしれません。ただし站樁はどの門派も普通に行うものですし、内と外の結合、意により体を主催する概念、気と体の配合など、鬆と緊の併存、剛と柔の共存などの概念であれば中国武術としては一般的な術理です。
ですから北派武術をある程度修めた中国人としてのネイティブの感性を持ってる人にとってはそれほど難解ではなく、なおかつ入り込みにくことはないものであるとわかります。
その瞬間瞬間に起こりうる状況に適切に対応するため、套路という固定化した姿勢と動作の羅列を故意に排除しています。これは武術は水のように形なく臨機応変なものであることを体現させようという試みであると同時に、套路とう定型的で安易な導きがないために戸惑う練習生が一定数出てきてしまうというのも事実だと思います。
站樁という一見動いているように見ず、ただ立っているように見えるものこそが王向斉が最も重要だと感じた功法なのでしょう。
このような形なきものを正確に指導し、それなりの成果をあげられる人材が育っていくには、指導者の理解と指導力、学生の理解力と知見が試される玄人向きの武術といえるかもしれません。
意拳の伝播
意拳は現在中国、日本、ヨーロッパやアメリカにも広く普及しています。王向斉から指導を受けた人物は甚だ多く、有名な人物だけでも趙恩慶、卜恩富、張恩桐、趙逢堯、韓星橋、姚宗勳、尤澎熙、張長信、澤井健一ほか多数がいます。日本人の澤井健一は王向斉から意拳を学びそれを元に太気拳を創始しています。
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意拳の著作
意拳には、「意拳正軌」、「拳道中樞」(大成拳論)が伝わっています。
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意拳のまとめ
今回は王向斉が創始した意拳について解説しました。意拳は中国伝統武術としては最も新しい門派でありながら、成立してからすでに80年が経過しています。
意拳は中国伝統武術を土台としてながらも精神の作用や人体の構造、力学を十分に研究してそれらが中国の伝統的な感性と結合し発展したものです。意拳の練習カリキュラムは套路を廃するという特徴が注目されますが、站樁はそもそも伝統武術の基本功として普遍的であり且つ秘伝としても広く存在する伝統的な訓練方法の一つです。
中国武術の核心を抽出し、それを練りこんでそれをきっかけに広がっていくための無限の可能性を秘めているという意味で革新的です。意拳は世界各地に普及し、太気拳や韓氏意拳という支派を生み出しています。
私は意拳を学んだことはありませんが、私が研究する中国伝統武術の延長線上には意拳があります。私の認識の方向が間違っていなければ、私の武術は、将来意拳と類似した内容に行くのではないかと推測しています。