中国の剣の歴史は古く、古代には青銅が、のちに鋼鉄の剣が作られ現代に至っています。
剣は「兵器の君(君子)」と言われ、中華文明の高尚な人文精神を表す武器とされています。
今回は、中国の剣及び剣術について解説します。
剣とは
剣は、左右対称の形状を有する両刃の短兵器で、刺突に優れた兵器です。剣は文士が佩する「文剣」(軽く薄い)と、武人の持つ、実戦での斬撃を想定する堅牢な「武剣」(堅牢で厚い)があります。
剣の形状により、断面が4面のもの、6面のもの、8面のもの、変形型8面のものなど様々です。
刺突にて効力が発揮できる様切っ先が鋭く作られており、刺突の際、手が滑っても傷つかないように、鍔がつけられています。
剣の歴史
春秋時代には、青銅の匕首が作れらていました。剣の鋳造技術は、呉、越のような南方の諸侯国にて発達し優秀な剣が作成されています。青銅は腐食しにくいため、保存状態が良好な青銅剣が今でもまれに発掘されます。
戦国時代には、青銅剣が隆盛を極め、製作技術の発展により長剣も作られるようになりました。秦の始皇帝も王宮で燕の荊軻に襲撃された際、背負わなければ抜剣できないほどの長剣を帯びています。また始皇帝贏政の陵墓の隣にある兵馬俑では、大量の青銅剣が装備されていました。(その後大部分は項羽の楚軍により持ち出されています)。
古代より、士(教養と資産のある階級)は冠とともに、剣を帯びることが正装とされており、教養と高尚な精神を表すという意味で重視されていました。
青銅剣は漢代に鉄の精錬技術と鍛造技術が発達するにつれ、主材質の座を鉄に奪われて行きました。後漢には、戦場の歩兵及び騎兵が持つ短兵器として鉄刀が登場し、剣は白兵戦での実戦兵装としての意義は失われました。しかし支配階層及び、統率者の兵器として、剣は存続します。
盛唐時代の詩人李白も剣撃を好んだことで有名です。
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剣法の技術の特徴
剣について、特に文剣は軽く鋭利な刃を持ちますが、身は薄く、大きな兵器、重い兵器をがっしり受け止めることはできない構造になっています。また刃は鋭い反面、武器を受けると刃を痛めてしまいます。
よって、身法と歩法で相手の攻撃をかわしながら(日本武道でいう体をかわす技術)カウンターで手首の動脈や頸動脈を押し切る、または引き切るという技術を用います。刀で行われる、遠心力を用いて振り切る「砍」という攻撃方法は通常は使用しません。
剣法では特に軽妙な歩法が重要です。歩法だけで攻撃をかわせるように訓練をする必要があります。この剣法の訓練は徒手の歩法や身法に大いに生かされることになります。
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剣の強み
剣の強みについて以下に述べます。
崇高で高尚な精神を表す
中国文明の高尚な精神を表す武器です。文人、官僚、軍師が武備のために帯びたり、剣を論じることが文人の間で流行していました。また、剣法と書法は、手首の動作、精神性において、共通する部分があるため、文人や教養ある階級に好まれたという背景もあります。剣は、軍師、将官により軍の指揮にも使用され、よって兵器の帥とも名されています。
刃部の総延長が長い
剣は両刃であるため、片方の刃が打ち合いで鈍っても、もう一方の刃を使うことができます。
刺突に有利な形状
両刃で先端が鋭利に尖っているため剣は刺突に有利です。ダガーが鋭利な両刃になっているのと同様です。
剣の弱点
剣の弱点は以下の通りです。
堅牢性が弱い
剣は、両刃であり、身幅を厚くすると刃の角度が鈍角になるため身幅の厚さに制限が出ます。よって鋭さを追求するため薄さを追求せざるをえず堅牢性を犠牲にしています。
大型の武器をまともに受ける様にはできておらず、これを行うと剣は曲がるか、折れてしまいます。どうしても受ける必要がある場合は、できるだけ力を反らす必要があり、力を「化」する技術が必要です。
諸刃のため、自分を傷つける可能性が高い
刃が両刃のため、自分を傷つける可能性が高く、操作には相当の訓練が必要です。刀では、峰を体に押し付けたり、腕を添えて大きな力を支えることができます。ですが、剣ではこれを行うことができません。剣の特性を十分理解し、上手に運用するには、相当長い時間が必要とし、百日刀、千日槍、万日剣というほどの日数がかかります。
まとめ
剣は、刺突を主要な攻撃手段とする武器です。積極的な攻撃性のある兵器というより、「後発制人」(後に発するも先に制する)を目指す自衛用兵器と言えるでしょう。剣に使われる鋼は折れることを防ぐため弾性を持たせたものなので多少の震動はありますが、現代の競技武術で使われる響剣という器械は、刺突性という剣の本質的機能を失ったものです。
中国人は、剣という凶器に、高尚な哲学精神を融入させることにより、文士が帯びるに相応しい精神性を導入するに至っています。剣を帯びることはまさしく、文事を做す者が必ず備えるべき武備であると言うことができます。