全ての中国武術、特に淮河以北の武術は、長拳という流れを汲むといっても過言ではありません。本日は長拳について解説します。
長拳とは
現在は、WUSHUや武術太極拳(重複名称でありいつになっても聞きなれない名称)の普及により今ではかなり認知された名前になってきています。長拳は英語でそのままlongfist と訳されます。風格をそのまま表現した名称です。
つまり長い拳、放長撃遠(長い距離にて遠距離を撃つ)を特徴とする名称です。長拳は様々な北派武術について、同様の基本を持つ武術体系の総称であり、伝統的な武術の分類では単一の拳種を表さないことが一般的です。
長拳という名称を正式名称とするところはあまり多くないことには注意が必要です。長拳は中国北派武術の中で馬歩や弓歩を立ち方の中心とする武術の総称と言えます。
長拳の歴史
長拳系列の武術は、中国北方で古来より伝えられてきました。多くの門派の源流となっていることは体系を比較すれば明白なことですが、歴史的にこの系列が、いつ、どこで、だれが、どのように、発生したかはわかっていません。
一説には、宋の太祖趙匡胤が開祖である、〇〇が開祖である、などと伝説が出てきますが、これらの多くは、自らの門派の正当性を強調し、権威付けするための方便にすぎません。
長拳の特徴
長拳系列の武術の特徴は、姿勢が大きく、動作が伸びやかで、腿法(蹴り技)、跳躍技法が多用されます。一般的には
- 少林拳
- 紅拳
- 査拳
- 華拳
- 砲拳
- 六合拳
- 燕青拳
- 秘宗拳
- 梅花拳
- 三皇砲捶
- 弾腿
等が、長拳の概念に含まれる拳種となります。理論としては、
- 遠踢(遠くは蹴りを用いる)
- 近打(近くは拳で打つ)
- 貼身摔(密着すれば投げる)
があります。
長拳系の武術は技術的共通性を持つ体系が黄河流域に比較的広範囲に伝わっており、歴史が古い武術として認識されています。長拳の中でも、査拳は現代の競技スポーツである「WUSHU」の基礎となっており、若者が身体能力を訓練するための教材として優れています。
また長撃に優れ、風格にクセがなく、オーソドックスな技がバランスよく含まれ、動作に見栄えのするものが多いのも特徴です。ですが、伝統的な訓練を行えば、健身、防身の価値も大きいです。
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長拳の優れた点
長拳系武術の優れた点は、上の特徴でも紹介した通り、遠、近、打、踢、摔のバランスの良さです。あらゆる技術を平均的にカバーしています。
動作は伸び伸びとしており、より高度である一方の技術に特化した武術を練る前の下地を作るにもうってつけです。接近戦では靠(体当たり)、摔(投げ)も使うことができますが、大きな動作、蓄勁動作を使ってダイナミックに動くことにより、動作の大きさに比例した形の衝撃力が大きい打撃を打つことができます。
長拳系列の武術は北派武術の基礎訓練となり得ます。長拳系列の武術で基礎をつくり、それから他の武術に移行しても長拳の基本功が邪魔になることはまあありません。近代武術を創作した名人たちのほとんどが、初めに長拳系列の武術を修めたあと、次の武術に移行していいます。
比較的歴史が浅い近代武術では、徒種の技法には門派の特徴があっても、武器術となるとその門派の特徴が顕著になくなってしまう門派もあります。そのような場合は長拳の動作を借用して武器術を練ることになります。伝統的な武器術との親和性が高いことも長拳の特徴です。
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長拳の劣るところ
長拳は技術的な配合比率が平均的な反面、逆に技術的に特化した部分がなく、これが欠点と言えます。長拳の練習者は、特化した部分を作るべく、どこかに優位を持った拳種を併修することもあります。
連続技法に秀でた武術と比較すると、長拳は連続技法で劣ります。また一撃必殺に特化した武術と比べると一撃必殺の技術を養う訓練体系で劣る部分があります。これについては賛否両論があるかと思いますが、研究と練習にかける時間は有限であることから、どこかに特化すればどこかが疎かになることは仕方がないと考えています。
動作が大きく、長撃に長けるため、体格に恵まれた方には有利ですが、小柄な方には長拳のメリットは生かしにくい場面が出るかもしれません。それでも長拳は全方面においてバランスのとれた優秀な拳種であることは間違いありません。
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まとめ
長拳は、全ての母拳であると言えます。後世に徒手の攻防技巧の技術的発展を伴って派生し独自の門派の体系を名乗るようになった拳種であっても、それの門派の兵器套路(刀、剣、棍、槍)を見れば、北方共通の長拳系列の基本功の延長にて動いていることが明らかにわかります。
太極拳、通背拳、螳螂拳、どのような拳種でも長拳との共通性は必ずあるはずです。もし自分の練習過程で門派の成り立ちに興味が出たり、技術的な行き詰まりを感じたら、長拳の基本功を参照してみると効果的です。