これまで中国武術の門派及びそれらの支派等を解説してきました。河北省、河南省、山東省を中心に様々な門派の武術を紹介してきました。
今回は河北、河南、山東の境目の地域で発展し、歴史上義和拳とも呼ばれた梅花拳について解説します。
梅花拳とは
梅花拳とは中国伝統武術の一派で、北派の長拳系に属する門派です。梅花拳という名前の武術は一種ではありませんが、山東省やその周辺に伝播している系統のものが比較的有名です。特に河北省南部、河南省北部、山東西部などで伝承されています。
梅花拳という名称の由来は、それぞれの梅花拳により異なりますが、一般な概念としては、梅は中華文明では縁起の良い花であることから雅な拳名として花の名前が借用されたこと、梅の花には5枚の花弁があることから、5打、または5打前後の連続動作を得意とすることから名づけられた、などが推測されます。
日本では花といえば桜が連想されますが、中華文明では花といえば、牡丹や梅、桃が代表的です。梅は花の中でも中国人に好まれるものの一つであり早春の代名詞です。チャイナエアラインの社章、中華民国の国花には梅花が採用されているところがこれを表す代表的事例です。
梅花拳の起源
梅花拳が創始された経緯や歴史についてはっきりしたことはわかっていません。文献に「梅花拳」という記述がみられる場合もありますが、それが現在行われている梅花拳とどのような関連性があるのかも未詳となっています。
「周の時代から脈々と受け継がれた」「祖(伝説の人物)が創始した」などのよく言われる伝承もありますが、信ぴょう性は不明です。
明確な起源が不明の梅花拳ですが、梅花拳の起源について以下のような伝承があります。ここではその起源のいくつかを紹介します。
「甲社」を始祖として梅花拳が始まり、徐州城南銅山県の張三省が第二世となった。その後周一族に伝えられ広く普及した。
河北省平郷県にて生まれその周囲に広まった。その後山東、山西、河南の各省に伝わった。
梅花拳の特徴
梅花拳の特徴としては以下のようなものがあります。
義和拳では手、眼、身、法、歩、精、神、気、力、功の運用を重視する。また剛柔を備え、外見よりも実用性に重きを置いている。龍、虎、鶴、豹、蛇の五種の姿勢を練る(これが梅花拳の由来という説がある)五行(金、水、木、火、土)の理を採用している。
梅花拳の基本技術
梅花拳の基本功は山東、河南、河北に伝わる武術と大きな差異はありません。
義和拳と梅花拳との関係
中国武術には義和拳という名前の拳種があります。義和拳は、19世紀末に創設された門派といわれています。
19世紀後半の中国北方では、欧米の宣教師が布教していたキリスト教と土着の宗教が衝突を起こしていました。梅花拳もこの争議に関与し、1897年には俗に曹州教案と呼ばれる教会襲撃事件を起こしました。
この際、この問題が梅花拳全体に影響が及ぶことを避けるため、梅花拳の一部を義和拳という名称に変更した、というのが義和拳の始まりであるという説が有力です。義和拳を扱うものは義和団と言われ、その後巻き起こる義和団の乱にも大きく関与することになります。
また義和団は白蓮教の支派であるという説もあり、このあたりの経緯は今後の研究が待たれるところです。ですが梅花拳と義和団に一定の関係があったことは事実のようです。
梅花拳の兵器
梅花拳の兵器も他の北派武術と大きな差異はなく、棍、刀、剣、槍及び奇門兵器として流星錘や九節鞭、大刀などがあります。
梅花拳の伝播
梅花拳は貴陽、徐州、渦陽、寧陵、衡陽、淮陰、開封にも伝播しています。また台湾地区では呉体胖が曹州梅花拳を伝えています。
伝承と文化遺産保護
梅花拳は2019年に国家級非物質文化遺産のリストに登録されました。
梅花拳の伝人
梅花拳の伝人としては、司中元、司佔彪、呉体胖、李福田、魏士可、崔文勤、丁金龍、郭子敬、楊士文、王守義、劉宝印、賈龍昇、李慶連、曹廣超、張玉萍などが知られています。
梅花拳のまとめ
今回は梅花拳について解説しました。梅花拳は河北省、河南省、山東省が交錯地帯で発達した土着武術の一つです。
梅花拳は独立した門派としても中原で普及していますが、あるときは義和拳、ある時は梅花長拳、またある時は別の門派の中の套路や動作の中に一定の影響を及ぼしている門派でもあります。
梅花は中国文化では縁起がよく吉祥の表現です。ですから多くの文化や武術でも梅花という表現を使用しています。もしあなたが練習している門派の中に梅花〇〇という技法があれば、梅花拳の影響が直接または間接的にある技術の可能性があります。
梅花拳を専門で極めたい方は、河北省、山東省、河南省の境界で伝承を探り、そこで真伝を学んでみてください。
このブログが皆さんの中国武術研究の参考になれば幸いです。