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尚派形意拳 ~尚雲祥が起こした河北派形意拳の支派~

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内家三拳の中でも剛猛な勁を発揮することで有名な形意拳には様々な支派があります。形意拳には山西派、河北派という区分のほかに車派、宋派などの支派があります。

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今回は「半歩崩拳あまねく天下を打つ」で有名な尚雲祥が興した河北派形意拳の支派「尚派形意拳」について解説します。

尚派形意拳とは

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尚派形意拳とは、尚雲祥が河北派形意拳を母体にしつつ自身の研鑽と工夫を盛り込んで成立させた河北形意拳の支派です。

尚派形意拳は河北派形意拳を母体としつつも、起式や五行拳のあり方や十二形拳の解釈に河北派形意拳との差異が見られます。そのため河北派形意拳とは別枠で「尚派形意拳」として分類されます。

尚雲祥

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尚雲祥は字を霽亭といいます。李洛能から数えると形意拳の4代目の伝人にあたります。彼は1946年に生まれ李存義を師とし、その後郭雲深からも指導を受けた人物です。

尚雲祥は元来虚弱で身長は160センチに足りませんでしたが功夫を大成した後は、「大桿子」「半步崩拳」「丹田気打」という通り名で実戦による強さを武林にとどろかせました。

尚雲祥は幼少のころ父とともに北京に移住し馬蹄鉄を鍛造を生業にしていました。当初は少林系武術の基本功を練習していましたが、後に形意拳の名師李存義と出会い苦労の末、李の門下に入りました。

尚雲祥は「小糖瓜」のような小柄な体躯でしたがその功夫は師兄弟の中でも群を抜いていました。尚雲祥は本業の蹄鉄屋の経営が傾いてしまうほど練習に没頭し、とうとう靴を買うお金も尽きてしまい、裸足で練習するありさまとなりました。ですがこれにより彼の足は鉄のように固くなり、人は彼を鉄脚仏と呼ぶようになりました。

自身の師である李存義と八卦掌の程廷華は双方ともに董海川に技芸をを学ぶ間柄であったため、尚雲祥も形意拳を学ぶ傍ら八卦掌の要訣を得ることができました。

尚雲祥は、武林の人材と広く交流し、武を以て友となし、数々の腕比べを経て自分の武技を切磋琢磨し、また実践の中で経験を蓄積していきました。

北京、天津地区で交友関係を持った名人には「木馬」こと八卦門の馬貴や、「臂聖」と言われた通臂拳の張策、呉式太極拳の王茂齋らを上げることができます。尚雲祥は北京に居を構えた当初は鼓楼で練習を行っていましたが、後に清の朝廷総管である李蓮英の邸宅の警護を勤めました。

尚雲祥はまた山西省も訪ね、武術の参考としました。そしてそれらをまとめ融合と昇華をしたのち、自分の形意拳としてまとめ上げました。これが今日、尚派形意拳と呼ばれているものとなります。

尚派形意拳の特徴

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ここでは尚派形意拳の特徴のうちいくつか大きなものを挙げていきます。

起式と収式

尚派形意拳の内容の全体構成は一般的な河北派形意拳に準ずるものの、起式の外形がやや異なります。勁の伴う鑽拳と鷹捉を以て三体式を作ります。

三体式を作るときに行う鑽拳と鷹捉は五行拳で行うのと同様に激しく勁を発します。また収式も他派とは過渡式が異なります。

五行拳

形意拳の五行拳では劈、鑽、崩、炮、横の動作を練習します。

五行拳の順序

形意拳の五行拳といえば、最も一般的な順序は、劈、崩、鑽、炮、橫ですが、尚派形意拳では五行の相性の理の順を追って劈、鑽、崩、炮、橫の順序で五行拳を練ります。これは

  • 劈→鑽 金は水を生む
  • 鑽→崩 水は木を生む
  • 崩→炮 木は火を生む
  • 炮→橫 火は土を生む

という流れによるものです。

鷹捉と劈拳

尚派形意拳では五行の金となる劈は手形を拳(こぶし)で打ち出し、前腕部を斧に見立てて打ち下ろす意識で勁を発します。

掌打を前方に打ち出すで行うものは鷹捉として劈拳とは区別します。三体式は鷹捉の静止状態ともいえます。

鑽拳

尚派形意拳の鑽拳の形は、他派の形意拳とすこし形が違います。前手でひっかけと掌打を行ってから鑽を打ち出す、という要領で鑽拳を行います。

十二形拳

尚派形意拳の鮀形は一般的な形意拳で言われる鰐のような水棲爬虫類ではなく、水面に浮かび水面を滑るように移動する水棲生物を想定します。

また鳥台形は猛禽類文される鳥類を想定しています。駄馬を表す駘ではありません。

これらの物理的な動作を模倣するのではなく、それぞれの生き物や架空の生物の「勢」を、功夫を練るために参考とします。

打顧一体(打法即顧法、顧法即打法)

打顧一体とは攻撃と防御が一体であるという概念です。形意拳の基本概念として相手の中心線を攻めていく攻撃方法とります。

この場合、攻撃は相手の中心に向かいますが、相手がもしこちらの中心線を攻撃してきた場合に、こちらも攻撃を繰り出した場合には、攻撃で攻撃を受けることになります。結果的に攻撃が防御を担うことになるわけです。

「肘不離肋,手不離心」(肘は肋を離れず、手は心を離れない)も形意拳の防御概念の一つです。これは上体を防御しつつ、体をまとめて蓄勁を行うための予備動作でもあり、ここにも尚雲祥が論じた打顧一体が表現されています。

脚打七分

尚派形意拳はとくに足で前進するときに生まれる勁を生かして攻撃します。これを「脚打七分」(力の七割は足の力で拳を打つ)と表現します。つまり、後ろ足で地面を蹴りこみ強く前進する力を勁の源とするという概念です。

ですから足を使って力強く、尚且つできるだけ遠くまで歩を進めこの推進力で拳を打つようにしなければなりません。これは中国武術は足で拳を打つとも言い換えられる所以です。

四像

四像は鶏腿、龍身、熊膀、虎抱頭の四種の概念です。

鶏腿

鶏腿とは鶏のように片足で立っても安定して水平に移動する様の表現です。脛、膝に隙間が空かず横幅を狭めた状態で安定し霊活に移動する歩法です。

龍身

龍身とは身法の表現です。正に似て正に非ず、斜に似て斜に非ず、よく胯が折れた状態、これが龍身です。

熊膀

熊膀とは熊の肩のようになだらかに垂れた肩や腕の表現です。抜背、垂肩、貫肘などをイメージするものです。

虎抱頭

虎抱頭とは勁を蓄えた状態を表す表現です。勇猛な虎がまさに獲物に飛び掛からんとする勢を表しています。

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尚派形意拳の套路

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尚派形意拳の套路には以下のようなものがあります。

  • 進退連環拳
  • 雑式捶
  • 六合拳
  • 八式拳
  • 十二洪捶

尚派形意拳のを受け継いだ人物

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尚派形意拳を受け継いだ人物には、尚芝蓉、劉俊峰、趙克礼、李文彬、桑丹啓、李文彬、呉錦園等がいます。

台湾地区における尚派形意拳

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台湾地区では桑丹啓と呉錦園が尚派形意拳の技芸を受け継いでいます。呉錦園が受け継いだ尚派形意拳は新竹県錦園八卦掌研究協会で学ぶことができます。

 

呉錦園から呉国正を経て伝わった尚派形意拳を花垣武学研究会は継承しております。

尚派形意拳のまとめ

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今回は尚雲祥が創設し、河北派形意拳から派生した尚派形意拳について解説しました。尚派形意拳は河北派形意拳の支派として成立した形意拳です。

一般的な形意拳と基礎としながらも尚雲祥の工夫が詰まった新しい形意拳です。起式や収式等に独特の形があり、味わい深いものがあります。勁力養成としては最適な拳種ではないかと思います。

このブログが尚派形意拳ならびに中国武術研究の参考になれば幸いです。

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