本日も忍術の心得が詰まっている「伊勢三郎義盛百首」という歌集の中にある歌について、いくつか解説をしたいと思います。
今回は伊勢三郎義盛忍び歌百首の中から「時間」に関する3首について説明します。
目次
窃盗(しのび)には 時をしるこそ 大事なれ 敵のつかれと ゆだんする時
現代語訳:忍びの仕事は、適した時間を知る事こそが大切である。それは敵が疲れている時と油断しているである。
解説:忍びが夜討ち、小規模陣地制圧、野戦陣地や永久要塞攻略の手引きを行うなどの仕事を行うには、適した時間を知る事が重要です。人間は朝起きて、昼間活動し、暗くなると就寝して脳と体を休めるという生活リズムを持っています。その中で人間が休んでいるタイミングこそ、強襲をかけるには絶好のタイミングとなります。
忍び夜討ちに絶好の時間は具体的には深夜です。深夜、昼間活動している一般人員が休んでいる時を狙う、等です。近代、現代戦では週末の非番が増えるタイミングを狙うという方法もあります。実際にこれを行い戦術上成功したのが、日本軍による真珠湾奇襲です。
1941年12月7日(日曜日)の午前7時~の時間を使い、艦上攻撃機と艦上爆撃機での、真珠湾内に停泊している軍艦群のへ攻撃、爆撃を成功させています。日曜日の早朝という油断しやすいタイミングを狙った有効な戦術です。
また忍術書には、以下の通り忍び稼業に有利なタイミングが記載されています。
- 祝言の翌晩
- 隣家に火事、事件のあった次の日の夜
- 家族が病気から全快した日の夜
- 宴会の後や葬式の二、三日後の夜
- 雨の夜(夏は涼しく、冬は暖かいため眠りが深い)
これらの日には疲れや気候により眠りが深くなりやすいです。日本に限定すればこれは現代でも同じことです。疲れと人間の生理的リズムを味方につけるのが伊賀の忍術です。
現代戦に於いては、少人数で警戒線を警備するため、レーダー、トラップ、監視装置などが要所に配置されており、24時間体制で監視が行われます。ですが、それでも警戒態勢のゆるい時間帯に行動をするということが忍び稼業の基本となることは間違いありません。
あかつきは 人のねふりも さめやすし しのびにゆかば 心得をせよ
現代語訳:明け方は、人の眠りも、覚めやすいものである。忍びに行くのならば、そのことを心得ておくことだ。
解説:明け方は体が睡眠と休息から起きようと活動を始める頃です。特に、初夏は4時ごろから明るくなり始めるため、早朝目が覚めるのが早くなります。夜間は偵察、潜入に適した時間ですが、作戦行動に遅延が発生し、夜が明けだしたら早急に行動を完了させなければ、任務遂行に支障をきたす確率が急激に高まります。
特にもし夜間行動の欺瞞に適した装備、服装をしている場合、遮蔽物のない明るい場所では、非常に目立つことになります。夜間の作戦行動が早朝まで遅延する可能性がある場合、それに備えて偽装工作の手筈を整えておきましょう。
時間的に十分ゆとりのある作戦行動計画を練り、夜10時ごろから作戦行動を開始し、問題なければ午前3時頃には全行程が完了するような計画を練るのが望ましいです。現代では野戦陣地攻略以外にも、侵入した戦車や装甲戦闘車、補給車両の奪取や破壊にもこの時間間隔は生かせることができます。
しのびにも 又は目つけの 時もただ よるを大事と 心がけせよ
現代語訳:忍びに行くにも、また敵地の下見に行く時も、夜の時間が大事だという心がけをせよ。
解説:密偵に敵方の陣地の配置を偵察に行かせる場合、深く侵入するには、夜間の時間が適しているということです。
内部の情報収集を夜間に行うには、制限がありますので、夜間に潜入し、そのまま明るくなるまで内部で待機し、明るくなってから情報収集、塹壕、兵員配置、規模、兵器の種類と配置、士気などを確認し、夜間になってから離れることが重要です。
また現在では民間の通信機器を利用し、適宜外部と通信を行うこともできます。ひょっとすると電波妨害を行い外部との通信を遮断しているところがあったり、内部からの不審な通信については探知されることがあるので、通信を遮断し、情報を足で持ち帰ることもっとも確実に情報を持ち帰る手段であることは現代でも変わりません。
伊勢三郎義盛忍び歌のまとめ
本日は、「伊勢三郎義盛百首」から「時間」に関する歌を抜粋し解説しました。500年前の人間と現代の環境について、夜間の明るさ、就寝時間には違いがあり、500年前に書かれたことをそのまま現代に生かすことはできません。
但し、疲れ、油断、生理的な生活リズムについては、500年前の人間と現代の人間とにさほどの違いはありません。
時間と奇襲タイミングの考え方について、我々は忍び歌から多少参考にできるところがあります。