本日も忍術の心得が詰まっている「伊勢三郎義盛百首」という歌集の中にある歌について、解説をしたいと思います。
今回は伊勢三郎義盛忍び歌百首の中から「接近」に関する首について説明します。
しのびには ならひの道は おほけれと まづ第一は 敵にちかづけ
現代語訳:忍びには、習うべき事柄は多くあるが、先ず第一は敵に近づくことである。
解説:忍びを行うには、習得するべきことは膨大にあります。その中で第一として、そして最も重要な事柄は、敵に近づくことです。即ち、敵に気付かれずに懐に入り込むことが大事です。
武士道的精神、軍人的精神では、敵と相対すれば、総じて正面から対峙し、敵対する、ということが行われます。これは忍びの精神としては、全くの稚拙な戦略であり、もっとも戒めなければならないことです。
例えば、憎むべき敵、殲滅する必要がある敵がいる場合、懐に潜り込み、内部から腐食させるほうがより効率よく相手を崩壊させることができます。人間の組織、または軍隊、そして、都市国家の城壁、要塞、企業、国家、政党、個人、家族、なんでも結構ですが、往々にして、敵対する外部に対しての警戒、防御は硬いものです。
しかし、内部の監察という部分に於いては、外部に対してほど警戒しないことが多く、特に、親類縁者、縁故の者、長年つき従っている家臣、陪臣などに対しては警戒を緩めます。
ある個人、組織を崩壊させる場合、懐かせ、信用させ、警戒を緩ませ、懐に潜りこみ、内部から操作し、崩壊させる、これが有効な手段となるでしょう。この方法は知略と奸計、そして、時間を要しますが、正面衝突を行い、消耗するリスク、費用とを天秤にかけた場合、極めて安上がりで効率的な戦略となります。
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伊勢三郎義盛忍び歌百首のまとめ
本日は、「伊勢三郎義盛百首」から「接近」に関する歌を抜粋し解説しました。
「戦略とは敵を欺くことである」。忍びは、時と場合に応じて、「敵を欺くには味方から」という具合にまずは見方を惑わしてまで全体最適における最高の効率を依頼者に提供するように心がけます。そのための技術として、人を鬼足らしめる「忍びの業」が存在します。
忍びの技には、陣地攻略の方法、情報伝達の方法、変装の方法、火術と延焼術など様々なものがあります。しかし忍びの技の中でもっとも重要な技術は、情報収集の技術です。情報収集を行うためには、まずは敵の近づき懐に潜り込むことが重要です。
懐に潜り込むためには、敵をなつかせる、懐柔する、愛想を振りまく、などし人間を信用させる技術が必要です。忍びにとって信用とは、人の警戒心を解いて有利な情報を得るための手段にすぎません。これはしかし忍びだけではなくビジネスのみならず処世術に於いても同じことです。
忍びのならいにはたくさんの道があります。第一に敵に近づくことの重要性を説くことは、忍びの術のなかでもっとも重要なところを強調しているとても大事なポイントです。人間は敵対する人物や組織に対しては警戒を怠らないものの、自分が信用する人間や腹心、懐刀には警戒心を緩める傾向があります。
忍術はこれらの人間の心理を深く研究し、それを能動的に活用するためによく考えられた内容になっています。もっとも良質で重要な情報を取るためには、自分が長い時間をかけて人の信頼を得、優れた人間性、口が堅い評判、評価、実直な精神を持っているかのように見せかけ、敵方に潜入し、最も信頼の厚い参謀、部下、後輩になるところからスタートをします。
そして相手が懐をさらすようなところまで信用を得ることができれば占めたものです。この役回りは男性でも可能ですが、容姿端麗でなおかつ頭が切れ、人の心にうまく漬け込むことができるように訓練された女性でも遂行可能です。これがいわゆる「くのいち」という存在になります。
くのいちという女性の忍びが日本の史実に存在したかどうかは記録になくわかっていません。ですが過去から現代にいたるビジネスや外交、戦争における情報収集の駆け引きにおいて、女性が情報収集において大きな役割を担うことはさまざまな実例をえています。
人間は睡眠欲、食欲の次に性欲という生来もった欲があり、このよくをくすぐることで、自然に、違和感なく大事な情報を引き出すことができます。そのような例は独裁国家で行われるとされていますが、独裁国家に限らず情報収集の常とう手段として積極的に活用することがいいと思います。これぞ目的のためには手段を選んでいく正しい姿勢の在り方であるとかが得ます。
伊勢三郎義盛百首の解説はこれで最後となります。忍びの業において最も重要なもの「敵に近づくこと」を最後にし、これを締めくくりたいと思います。伊勢三郎義盛忍歌の解説は26回にわたっています。もし興味がある方は順番にご覧になってみてください。人生の駆け引きや陣地攻略、密偵、防諜の技術の参考になるところがあるかもしれません。