本日も忍術の心得が詰まっている「伊勢三郎義盛百首」という歌集の中にある歌について、いくつか解説をしたいと思います。
今回は伊勢三郎義盛忍び歌百首の中から「変化」に関する1首について説明します。
目次
とが人の 跡をしたひて めつけせば 姿をかへて 人にしられな
現代語訳:罪人の跡をしたがい目をつけるなら、姿を変えて、罪人に知られないようにしなければならない。
解説:敵方の後を追跡、尾行するのであれば、変装を様々に行い敵方に知られないようにするべきです。変わり身の術ですね。一人で追跡し、露見される場合があるときには、何人かにて持ち回りで尾行することをお勧めします。
また職業、服装を適宜変えたり、髪型、表情、歩き方を様々に変えることにより、同一人物が後ろから尾行していることを紛らわせる効果があります。
さまをかへ 姿をかへて いろいろに 敵をなぶるは 盗人(ぬすびと)の役
現代語訳:様を変えて、容姿を変えて、様々に、敵を混乱させるのは、忍びの役目である。
解説:忍びの役目は敵をかく乱させる、つまりなぶる事です。いろいろなものに、姿形を、様を変え、姿を変なければなりません。また100年ほど前の背景を話してしまうことになりますが、外国であまり外国人が立ち入らない地域に潜入する場合に都合の良い職業、姿としては、新聞記者、ジャーナリスト、商社のバイヤーなどです。
山岳地に潜入する場合は、トレッカーなどもいいでしょう。現地人に扮する場合は、現地の言葉、方言、生活習慣を熟知し、遊牧民、運送業者、物乞いなどの姿に変装するのもいいと思います。
日本の戦国時代には、近国の方言だけをマスターし、あとは、伊勢から来た、近江から来た、と適当にわけのわからないことを言い、商売人、行商人に変装していれば、事は住みました。第2次世界大戦前では、資源採掘のエンジニア、鉄道技師、歴史学者などに変装することもできたでしょう。
現在では、忍び、つまり情報収集のために特務員が必要な場所は、中東の山岳地帯などとなります。忍びは黒ずくめの服を着ている物だというところからまずは考え直す必要があります。
付け髭、含み綿、化粧、鬘、帽子、眼鏡、外套、カラーコンタクト、等変装用具は沢山あります。これらを使えば第一印象を変えることは容易です。
以前レッサーパンダの帽子をかぶった強盗がコンビニを襲ったという事件がありました。防犯カメラにはその様子が映っていましたが、その強盗の顔を誰も覚えてはいませんでした。みんなレッサーパンダ―の帽子ばかりに意識が向いてしまったためです。このように、忍術とは人の心理を深く研究したものです。
忍術ではその所ところで、最も目立たない服装をすること、そしてそのような服装、風体を幾種も準備し、森の中に木をかくすように、人ごみの中に紛れ込み、だれにもわからないようにしながら、攪乱行為、流言を流す、風説の流布を行い、治安をかき乱したり、人々の不安を煽り、政権への揺さぶりをかけたりすることこそが忍びの業務です。
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まとめ
本日は、「伊勢三郎義盛百首」から「変化」に関する歌を抜粋し解説しました。
忍びは変幻自在、臨機応変に自分の姿、形、姿勢、立ち振る舞い、もっと言えば信条までも変化させることが必要です。変幻自在、臨機応変はいうのは簡単ですが実際にこれを遵守しようと思うとなかなか難しいものです。
水の如く何ものにもとらわれず、そして定まった形を作らず、だれにも自分の本性がわからないよう形を常に変化させ続け、そしてその場に順応し記憶にすら残らないようにするというのは高等なテクニックです。
これを実践するためには、教養と訓練、知識のみならず経験や知恵も必要になります。忍びには定まった形はありません。ステレオタイプからいかに脱却しだれしも忍びとおもうことすらしないところまで変化をする必要があります。こうすることにより、敵を懐かせ、警戒心を時、懐に奥深く踏み込むことが可能になります。
動物や昆虫を参照すればよく分かります。カメレオンは周囲の色に自分を溶け込ませることに巧みですし、ほかにも木の葉や枝に偽装した昆虫もたくさんいます。水中のタコも周囲の色に合わせて体色を変化させます。
人間も周囲の人間の中にまぎれ有利に情報収集や扇動を行わなければならない場合、即座に自然に速やかに現地の風土に紛れ込む必要があります。これは擬態をせよと言っているわけではありません。人間として人間のなかで変化し臨機応変の働きをせよということを申し上げています。
伊賀の先人は情報収集や情報かく乱のために京や係争の地で時には現地の人間、行商、敵陣地ないの使用人に成りすまして情報を得、時には流言をまき散らし陣地を混乱させて戦局の打開に貢献しました。これらを学ぶことは現代社会の生活をより快適にするためにも非常に有効です。