本日も忍術の心得が詰まっている「伊勢三郎義盛百首」という歌集の中にある歌について、いくつか解説をしたいと思います。
今回は伊勢三郎義盛忍び歌百首の中から「陣替え」に関する3首について説明します。
目次
ぢんがへの 用意のあらば 窃盗(しのび)には さき立ちて行き あんないを見よ
現代語訳:敵が陣替えの準備をしているようであれば、忍びは、まず先に行き様子をよく見よ。
解説:敵が陣替え(兵員の配置転換)を行う様子があれば、まずは密偵に探索させよという内容です。
最も良い状況としては、敵陣、要塞の中にすでに密偵が入り込んでおり、その人物が正確な情報を外部に定期的に連絡してくることです。そうでなければ、敵陣より高いところから兵員の配置転換について確認を行うか、見つからないように最接近し敵陣の様子をうかがう必要があります。
兵員の配置転換、出撃への準備、撤退準備などについて、敵方もそれを悟られまいと万全の策を尽くすか、それを欺く策を用います。例えば、撤退準備の際には、かがり火を多く焚き、打って出る勢いを演出するなど(天正伊賀乱にて比自山砦に籠城した伊賀勢がこの策を採用)です。
また第二次世界大戦では、関東軍は、万が一日ソ連が日ソ中立条約を破棄し、ソ連と満州国の国境を越え、ソ連軍が満州に侵攻した場合には、一部の満州地域を放棄し、防衛線を段階的に大連 – 新京 – 図們の三角線まで南下させ、持久戦に持ち込む作戦が策定されていました。関東具司令部はそれをソ連側密偵に悟られない方策として、満蒙開拓団にはこれを知らせませんでした。
第1次、第2次世界大戦では、陣地情報の収集は主に空から偵察機によるものに変わりました。それに対応して、偵察機の侵入を許さないために偵察機を迎撃するための迎撃機を配置することも多くなっています。
現代戦では、偵察衛星にて大気圏外から好感度カメラで敵陣の動向を探ることができます。よって陣地を構築する方は、上空から動向を察知されないよう、地下に構造物を隠ぺいする傾向が強くなっています。
作戦の第一歩は情報収集です。この一首には近代、現代戦の軍事学に通じる考え方が示されています。
ぢんがへの 案内をせば 山川や 敵のあひだを 第一とせよ
現代語訳:敵の陣替えの様子を見るならば、山や川等の敵陣間のような場所を、第一にせよ。
解説:陣替えの様子を観察するには、人気のない場所、特に山や川から潜入する操作することも肝要です。大規模な城塞、要塞には標高が高い部分や取水口や排水溝があります。こちらから侵入し内部に潜入するし、様子をうかがうことができます。
但し、密偵や間者への侵入対策として、警備員の配置、センサー、番犬、警報装置、電気柵、防犯カメラ等が設置されている場合が多いため、密偵はそれらの知識を十分に持ちつつ擬装をおこない情報収集に努める必要があります。
現代では要塞に侵入するために夜間に侵入するという方法を利用するよりは、出入り業者として堂々と白昼に侵入し、内部の情報を収集するのが良いかと思います。
コピー複合機の修理営業マン、郵便物の配達員、消耗品の納入業者、自動販売機の補充員、食堂の厨房担当、生命保険の生保レディ等に変装すれば侵入は容易です。
ぢんがへは まづ時と日の ならひあり しのびの役は 所てきあひ(敵間)
現代語訳:敵の陣替えは、日付に法則があるものである。忍びが行うべきは、その陣替えする敵の場所との間でよく観察することである。
解説:陣替えについて忍びが行うことは、敵の場所をよく観察し調査することです。できれば、敵方の合言葉、習いを身に着け、敵方の内部部員に成りすまし潜入することが望ましいです。そのためには、相当前から人足、従事者として採用され、信頼を得ておく必要があります。
偵察衛星からの衛星画像や、航空機による上空写真から解明できない情報を入手し攻め方の攻略を有利にすることが忍び、間者の務めですので、出入り業者や使用人に成りすましたり、内部の意志薄弱であまっちょろい人間を買収したりして、正確な情報収集に努めてください。
まとめ
伊勢三郎義盛忍び歌百首は、江戸時代、またはそれ以前にまとめられた忍びの要訣が羅列されています。本日は陣替えに関する句を抽出し解説を行いました。
伊勢三郎義盛忍び歌百首というものがまとめられてからすでに400年ほどが経過しており、それを当時のまま採用し、田舎侍の郭や近世城郭の陣替えへの対策として語ることは、当代最新最高の技術を使用するという伊賀忍術の心意気に反するものですのでそれについては留意が必要です。
よその忍術はわかりませんが伊賀者の感性として、陣地、いわゆる要塞や基地への侵入と情報収集方法について解説せていただいた次第です。