本日も忍術の心得が詰まっている「伊勢三郎義盛百首」という歌集の中にある歌について、いくつか解説をしたいと思います。
今回は伊勢三郎義盛忍び歌百首の中から「二人」に関する3首について説明します。
目次
一人を ふたりのしのび つけ行くは 敵をはさみて あとさきに居よ
現代語訳:一人を二人の忍びでつけて行く時には、敵をはさんで、後と先にいるようにせよ。
解説:敵方の密偵を見つけ、その密偵を尾行するには、尾行には二人の忍びを使い、一人を前方に配置し、もう一人を後方に配置することが望ましいです。もちろん敵方の密偵にはこちらが尾行していることを察知されてはいけませんが、万が一敵方の密偵が片方一人に尾行されていることを察知されても、2人目にまで意識が及ぶことは比較的少ないです。
もちろん、密偵を行う人間はこれらの人間の心理について専門の訓練を受けているはずですので注意にこしたことは無いですが、人間の脳は基本的にはシングルタスクを行うように設計されているため、同時に多数の事象に対して意識を配分することは苦手です。よって一人の密偵の対応に二人の尾行を付けることは理にかなっていると言えます。
テレビで見たことがありますが、「尾行している人、尾行されていることに気づかない説」というのをやっていました。やはり一人で気が付かないことも二人で分担すれば気が付くことがあるということです。ただし、お互いに依存しあい油断してしまうことは避ける必要がありますのでその点には注意が必要です。
窃盗(しのび)には ふたり行くこそ 大事なれ ひとりしのぶに うき事はなし
現代語訳:忍びには、二人で行くときこそ、心構えが大事である。なぜなら一人で忍びに行くのはならば、慎重になり、心が浮いてしまわないからである。
解説:情報収集の為、一人で行動する時には慎重になり心が浮いてしまわないですが、2人で行動する際には、人間は無意識にもう一人に対する依存心が出てしまい、油断することがあります。これに対する戒めがこの首には込められています。
例え2人ペアで敵地に潜入する際も、一人で行動している時と同様の警戒心をもち、気が緩まないようにしなければ墓穴を掘ることになるでしょう。
しっかりとタスクを理解し、気を緩めない状態で二人のペアが最適解を見つけて行動し、支えあえば、1+1=2以上の働きができるようになるということです。
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ふたり行く しのびはひとり さきだちて 跡なる人に 道をしへせよ
現代語訳:二人で忍びに行く時は、ひとりが先に行き、後から来るものに道を示すべきだ。
解説:2人ペアで潜入を行う際には、一人が先を進み、もう一人が一定の距離をあけ後をつけ、先に行く者が後に行く者に道を示すべきであるということです。2人ペアで行動すれば、二人同時に罠にはめられたり襲撃に合えば、作戦行動は失敗します。二人の距離が近すぎれば、一斉射撃や一発の爆発で二人が同時に負傷することもあり得ます。
一定の距離をあけ、別行動を装いながら連携すれば、前方の一方が捕縛されたり、襲撃で倒れても、後方の一方が作戦遂行を継続できます。適切な距離を置きながら、目的を達成するために行動することが作戦を成功させ任務を果たすために重要な事柄です。
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伊勢三郎義盛百首のまとめ
本日は、「伊勢三郎義盛百首」から「二人」に関する歌を抜粋し解説しました。忍びは油断から一人行動をすることを勧める文書もあれば、二人ペアで行動をすることが望ましいと書いてある忍術書もあります。これには一長一短があり、臨機応変に対応する必要があります。
2人ペアの場合は、1人が作戦行動に失敗した場合の保険となりますし、その代り、目立ちやすくなり、また依存心が生まれます。2人ペアを行う目的は一つは相互監視を行うことにあります。
この点は伊賀の人間に関していえば、お互いに過度に依存しすぎることはないため大きな問題はないでしょう。団結心がつよいめでたいお国柄の場合、ペアを完全にしんらいすることになるため、監視という点では問題が発生します。
一人一人が抜け目なく命じられた任務を遂行するかを監視するという目的が重要です。また2人で作戦行動を行う場合でも、2人には知らせない監視役を、3人目として配置し、という方法で離脱、敵方の密通を阻止できる可能性もあります。相互監視作用です。忍びの技は人の心をなぶり、欺く技術です。これは敵方だけではなく味方側にも言えることです。
情報を入手するために、敵対勢力の勢力圏内に正体をばれずに潜入し潜伏するというのは、技術と訓練が必要です。伊勢三郎義盛百首が成立した時期は相当昔ですが、敵地潜入についての心構えという点においては、現代の諜報戦での参考にできるところがあるかもしれません。